[概要]
- 昨年の同時期と比較して、今年の累積降水量は大幅に減少しています。
- エルニーニョ現象によって干ばつが発生する可能性が高い状況です。タイ気象庁は今年の6月から2024年3月までエルニーニョ現象によって干ばつが発生すると予想しています。
- タイ全体としては雨が少なくなりますが、局所的には激しい雨が降る可能性があります。
- チャオプラヤ川の主要ダムの貯水量は増加傾向に転じましたが、Pasakダムの貯水量は過去に深刻な干ばつが発生した2015年と同水準であり危機的状況です。
- Ping川、Wang川、Yom川、Nan川の水位は増加傾向です。スコータイ県では水位が「Critical」レベルまで達しています。
降雨量
下図はそれぞれ、(左)2022年1月1日~9月18日における累積降雨量、(中央)2023年1月1日~9月18日における累積降雨量、(右)2023年1月1日~9月18日における累積降雨量の平年(直近30 年の平均降雨量)との差を示しています。昨年の同期間の累積降雨量を比較すると、今年は500mmを下回る範囲が多い状況です。直近30年の累積降雨量と比較しても、ほとんどの地域において降雨量は下回っています。
天気予報
10月は雨期から冬への移行期となり、不安定な天気が予測されます。タイ全体の総雨量は平年より約10パーセント少なくなり、平均気温は高くなることが予想されますが、南西モンスーンの影響で局所的に激しい雨が降るおそれがあります。
エルニーニョ現象と干ばつについて
エルニーニョ現象とは太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象で世界の気候に大きな影響を及ぼします。東南アジアにおいては雨が少なくなり、干ばつが発生するおそれがあります。
アメリカ海洋大気庁(NOAA)は特定の海域での海面水温の3か月平均と過去の30年間の平均水温との差(海洋ニーニョ指数)が5か月連続で+0.5以上となった場合をエルニーニョ現象と定義しています。直近10年間の海洋ニーニョ指数は下表のとおりです。過去10年間では2014-2016年、2018年-2019年にエルニーニョ現象が確認されています。今年は4月から8月にかけての海洋ニーニョ指数は0.5以上となっており、この傾向が続けば今年もエルニーニョ現象が確認される可能性が高い状況です。タイ気象庁は今年の6月から2024年3月までエルニーニョ現象によって干ばつが発生すると予想しています。過去タイにおいて深刻な干ばつが発生した2015年と今年の海面水温を比較すると、今年は未だ低い水準となっていますが、注意が必要です。2015年の干ばつでは以下が発生しています。
- 1981年以来、最低の年間降水量を観測
- 全ての大規模ダムの貯水量が危機的な低水準となった。
- 大気汚染問題に繋がる山火事の増加
- 主要河川の水位の枯渇
- 農作物の収穫量が大幅に減少し、多くの食料品の価格が上昇
- バンコク東部とパトゥムタニ県の灌漑システムにおける水量の不足
- ランプーン県における工業用水の不足
図 過去10年の海洋ニーニョ指数(NOAA)
IEAT(タイ工業団地公社)は、今年のエルニーニョ現象はそれほど深刻なものではないと予測しています。一方、FTI(タイ工業連盟)は水の状況を注意深く監視していると述べ、2~3年続く可能性のある長期にわたる干ばつ状況に備えるよう政府に提案しています。
2015年には多くの工場が排水の再利用や民間企業からの工業用水の購入等の対策を講じていました。今年の干ばつの対策として天候を注視し、自社の工業用水の取水ポイントの水位について工業団地等との情報連携を行っていくこと、政府・工業関係機関が行う工業用水の確保に関する支援策の情報収集を行い、自社の工業用水不足の可能性を知ることが重要です。
ダム貯水量(Sirikitダム、Bhumibolダム)
貯水量:Sirikitダム(52%, 2023年9月18日)
貯水量:Bhumibolダム(45%, 2023年9月18日)
9月18日時点のBhumibolダムの貯水量は増加傾向になっています。Sirikitダムの貯水量も先月と比較すると38%から52%まで増加しています。両ダムの水量はタイが深刻な干ばつに見舞われた2015年の同時期の水量と比較すると高くなっていますが、管理値の下限(Lower Eulw Curve)を下回っています。
ダム貯水量(Pasakダム、Kwaenoiダム)
貯水量:Pasakダム(10%, 2023年9月18日)
貯水量:Kwaenoiダム(33%, 2023年9月18日)
PasakダムとKwaenoiダムの貯水量は9月の降雨によって増加傾向に転じましたが、2015年の水量と同水準であり、深刻な水不足が懸念されます。
チャオプラヤ水系の河川水位(チャオプラヤダム上流)
先月と比較して北部においてPing川、Wang川、Yom川、Nan川の水位は増加傾向です。スコータイ県では水位が「Critical」レベルまで達しています。
チャオプラヤ川の水位(2023年9月18日時点)
【備考】
①河川の中に示されている黒文字の数値:河川流量(m3/sec)、カッコに示されている数値:河川流量(m3/day)
②緑文字・+(プラス)-(マイナス)付きの数値:堤防天端から河川水位までの距離(0になった場合、洪水が発生)
③水位レベルのU/S、D/Sはm.で表示されています。
チャオプラヤ水系の河川水位(チャオプラヤダム下流)
チャオプラヤダム下流の流量は上流からの水の流入によって6月の55 m3/secから380 m3/secに増加していますが、現時点で洪水リスクは高くありません。
チャオプラヤ河川水位(2023年9月18日時点)
【備考】
①河川の中に示されている黒文字の数値:河川流量(m3/sec)、カッコに示されている数値:河川流量(m3/day)
②緑文字・+(プラス)-(マイナス)付きの数値:堤防天端から河川水位までの距離(0になった場合、洪水が発生)
③水位レベルのU/S、D/Sはm.で表示されています。
参照
- http://www.arcims.tmd.go.th/dailydata/yearRain.php
- https://www.tmd.go.th/forecast/monthly
- https://www.bangkokbiznews.com/lifestyle/judprakai/1078941
- https://origin.cpc.ncep.noaa.gov/products/analysis_monitoring/ensostuff/ONI_v5.php
- https://www.posttoday.com/general-news/699024
- https://www.bangkokbiznews.com/business/economic/1082186
- http://water.rid.go.th/flood/flood/daily.pdf
- https://www.thaiwater.net/water/dam/large
- http://water.rid.go.th/flood/plan_new/chaophaya/Chao_up18092023.jpg
- http://water.rid.go.th/flood/plan_new/chaophaya/Chao_low18092023.jpg