バンコクSamsean通りにおける大規模陥没事故

Massive Sinkhole
Massive Sinkhole
道路の地盤沈下 (出所: Facebook:Office of Disaster Prevention and Mitigation)
  • 2025年9月24日午前、Vajira病院の前にあるSamsean大通りで地盤が沈下し、大規模な道路陥没事故が発生しました。
  • 地下鉄トンネルの脆弱な構造により発生した漏水および土砂流出が陥没事故の原因と推測されますが、詳細な原因は調査中です。
  • 負傷者は報告されておらず、発生した損害は道路および警察署基礎杭の損傷のみでした。タイ王国政府首相のインタビューによると、陥没道路の修復には1年以上かかる可能性があります。

何が起こったのか?

2025年9月24日午前 7時13分にSamsean道路が陥没し、Vajira病院前からサムセン警察署までの区間に、縦30メートル、横30メートル、深さ50メートルの大きな空洞が発生しました。この場所は、地下鉄(Mass Rapid Transit, MRT)パープルライン延伸計画の一部であるVajira病院駅の位置でした。2本の電柱と2台の車が空洞に落ちましたが、負傷者は報告されていませんでした。

Massive Sinkhole on Samsen Road in Bangkok
道路の地盤沈下 (出所: Facebook:Office of Disaster Prevention and Mitigation)

継続する地盤沈下によりVajira病院前の道路が崩壊し続け、同日午後1時5分に橋脚および電柱などが陥没孔に落下した。事故現場付近の降雨により、午後1時25分にDusit警察署の建物が小規模に崩壊しました。その後も地盤沈下が進行し、午後2時42分時および午後3:15分の沈下量はそれぞれ1メートルおよび2メートでした。現在の空洞の大きさは報告されていませんでした。

South Purple Line
MRTパープルライン延伸計画(出所: Mass Rapid Transit Authority of Thailand (MRTA))

事故対応

Vajira病院は、外来部門 (OPD) および医学部実習を2日間停止しました。Dipangkorn Rasmijotiビルも一時的に閉鎖されましたが、Bejaratanaビルにある緊急治療室 (ER) はまだ開いており、必要な手術を行うことは許可されています。なお、病院の建物は地下の基礎壁のため被害は受けませんでしたが、安全確保のために約3,500人の患者は事故現場付近の建物から避難するよう指示がありました。

Samsean警察署は周辺の建物の中で最も被害を受けました。一部の基礎杭が損傷したため、警察署を一時的に移転しなければならない状況になっていました。

Dusit地区の職員は道路陥没による2次災害を防ぐために、Vajira交差点からSanghi交差点までとその周辺地域を通行止めにすると発表しました。

被害を最小限に抑えるための7つの緊急対策

  1. 水道配水を遮断し、緊急時には地域の住民に二次的な水道管を確保する
  2. 2次災害防止のために送電を停止する
  3. トンネル内の漏水箇所または土砂流出箇所の補修
  4. 事故現場周辺の建物の安全性評価
  5. CCTVカメラによる地盤の状態監視
  6. 建物構造の検査
  7. 周辺の交通管理

(出所:Chadchart都知事の発表 )

Subsidence location
陥没事故現場の位置(出所:Google Map)

調査

Chadchart都知事は、水道から漏水、ならびに地下鉄トンネル (深さ15~20メートル) および地下鉄駅の弱い場所である接続部への土砂流入によって地盤沈下が始まった旨の見解を発表しました。一部の周辺住民によると、地盤沈下に先立って道路から水がしみ出していました。現在、さらなる根本原因の調査が実施されています。

Incident simulation
事故シミュレーション (参考: Render Thailand)

タイ王国政府のAnutin首相は、「原因はまだ特定できていない。何らかの技術的過誤があったと考えられる。原因究明に努める。」と述べた。

Chadchartバンコク都知事は、降雨により多くの土砂や水がトンネルに流入することにより道路の復旧工事が遅れる可能性があることが懸念されるため、降雨時に対応する専門チームの準備を備えていると表明しました。

タイ大量高速輸送公社 (Mass Rapid Transit Authority of Thailand , MRTA) のKajpajon Udomthamphakdee総裁は、「土壌の隆起と地下水の漏出が、地下鉄駅の壁とトンネルの周りの地盤の動きを結びつけている」と述べました。

Pichit鉱物資源局長は、今回の事故を鉱物資源の観点から説明しました。「バンコクの地質構造は、厚み20から30メートルの粘土層および三角州で、自然空洞は地下鉄工事または地下埋設管の漏洩などの外部刺激がなければ発生しない。さらに、降雨は粘土構造層の侵食を引き起こし、空洞を形成する可能性がある。雨水および水道管からの漏水により粘土が溶かされると、空洞内へ容易に流入することが考えられる」。したがって、地質構造も被害の主な要因と考えられます。バンコク地質構造の粘土は軟質粘土および三角州由来で、易圧縮性、高含水率と低排水性、収縮・膨張性、および強度のような独特の特性を持っています。当該粘土にはは24%~30%の水が含まれており、「バンコク粘土」と呼ばれています。

しかし、事故により倒壊した建物はなく、警察署の基礎杭(約21メートル)が損傷しました。

Components of Bangkok clay
バンコク粘土の成分 (参考資料:バンコクの地質及び地質資源の管理のための区域の分類)

復旧工事

MRTA および本プロジェクトの請負業者は、陥没孔への土砂および水の流入を防ぐために、トンネル開口部を5万個以上の土のうで密閉しました。密閉作業の終了後、コンクリート充填および道路建設が開始される計画です。当該道路は2025年10月9日までに復旧される予定です。

バンコク全域で考えられる地盤沈下の原因

バンコクの地盤沈下はいくつかの要因によって発生する可能性があります。地盤沈下により、構造物の損傷や、今般のSamsean道路事故のような大規模陥没が発生します。また過去には、Udomsuk道路、Chaengwattana道路、およびSukhumvit 46道路で陥没事故が発生しています。バンコクで地盤沈下が引き起こされる主な要因は、地下水の揚水、重量構造物の建築工事、および地質構造の物理的特性、これら3点だと考えられます。

  1. 地下水揚水は粘土層の水圧を低下させます。過去のいくつかの地盤沈下事故において、地盤崩壊の主要な要因が地下水用水であることが確認されています。圧密試験報告書によると、バンコク粘土の圧密は連続的な重量プレスによって発生します。その結果、粘土層の水圧が低下し、応力レベルが臨界に上昇することが示されています。
  2. 重量構造物の建設工事も地盤沈下の原因になっています。陥没事故の多くは、基礎が帯水層にあることにより、バンコク粘土の圧密の影響を受けて発生しています。
  3. 堆積層の物理的性質も地盤沈下の1つの要素になっています。バンコクは主として粘性土および砂質土からなる非圧密堆積層に位置しており、特に乾燥した河床である三角州は地盤沈下する可能性があります。さらに、土壌中の水は粘土層および粒子間隙の間の圧密を破壊し、土壌構造を不安定化させます。その結果、土壌構造が崩壊します。今回の陥没事故ではトンネル内への土砂および水の流入が発生していることから、堆積層の物理的性質が最も関連していると考えられます。

緩和措置

地盤沈下の状況を緩和するためには、道路の安定化、漏水の管理、および周辺インフラの保護に焦点を当てた、迅速な評価と長期的な戦略が必要です。

South Purple Line

1. 迅速な負荷軽減

まずは地盤安定化および水管理の改善を速やかに行うことが求められます。地下への土砂や水の流入を防止するために、漏洩箇所を密閉して補強する必要があります。補強作業では、大量の土のうを設置するとともにコンクリートが流し込まれ、漏洩箇所からの土砂や水の流入の阻止が図られます。土砂の流動性を高める降雨も懸念要素の1つです。地盤のさらなる不安定化の要因となる崩壊箇所への雨水流入が、土のうにより一時的ながら阻止されます。

Sealing the tunnel by sandbag
土のうによるトンネルの密閉 (参考:Facebook: Office of Disaster Prevention and Mitigation)

2. 監視と評価

次に、さらなる地盤沈下または地滑りの兆候を把握するために、土壌流動および地盤安定性の評価監視を24時間実施する体制の構築が必要です。今般の陥没事故では、周囲のすべての建物、特に基礎杭が土壌によって損傷した可能性のあるSamsen警察署の構造的健全性が迅速に評価されています。迅速な負荷軽減ののち、事故の正確な機序および根本原因の調査が再発防止を目的として行われます。今般の陥没事故では、警察による原因調査が継続されています。

Monitoring Tool
監視装置 (参考: Facebook:Chadchart Sittipunt)

3. 長期的な軽減策

最後に、長期的な防止策が講じられます。周囲の土壌の強度および剛性を高めるとともに、長期的な地盤安定性を確保するために、地盤改良が実施されます。

その際は、深層土壌混合やグラウト注入などの高度な地盤工学ソリューションが採用される場合があります。安定した地下水位を維持するために、関連法規に準拠した取水量削減などの戦略的地下水管理を行う必要があります。

Limitation of groundwater extraction per day
1日あたりの地下水取水量の制限(参考:地下水資源局規則)

同様の事故を防止するために、MRTパープルライン延伸工事現場の地下部分および接続部分のインフラ点検が進められており、脆弱箇所の特定および補強が講じられる予定です。

今後は、安全マージンの導入ならびに土壌浸食および水道管漏水の防止対策を盛り込んだ、軟質地盤における地下工事手順および構造設計の見直しが望まれます。

出典

https://www.khaosod.co.th/breaking-news/news_9950342

https://www.bbc.com/thai/articles/cj6x9kek7kro

https://www.thaipbs.or.th/news/content/356871

https://www.thairath.co.th/news/local/bangkok/2884791

https://www.bangkokpost.com/thailand/general/3109996/huge-subsidence-on-samsen-rd-in-bangkok

https://www.prachachat.net/general/news-1889458

https://www.thaipbs.or.th/now/content/3191

Facebook: Chadchart Sittipunt

Facebook: Office of Disaster Prevention and Mitigation

Facebook: Render Thailand

Regulation of the Department of Groundwater Resources

Classification of zone for the management of geology and geological resources of Bangkok

Share:

Let us help you ensure business continuity

Talk to InterRisk and take the first step toward a safer, risk-free business