タイにおける2025年雨量状況のまとめと2026年の雨季の見通し

 

【要旨】

  • 2025年はタイ全土の多くの地域で平年以上の年降雨量となり、2024年に引き続きタイ各地で洪水リスクが顕在化した年であった。
  • 2011年の大洪水経験を踏まえたタイ政府・水系管理者の放流量コントロールが奏功し、チャオプラヤ水系エリアの主な工業地域おいて大きな経済被害が出るような洪水発生には至らなかったが、一方で、11月にタイ南部ハートヤイ市街地などで顕著な豪雨による洪水が発生し観光・商業などの経済被害が発生した。
  • タイの洪水リスク要因は広域の気象現象(エルニーニョ/ラニーニャ、モンスーン、台風)、タイ国内各地・各時期における降雨分布状況、ダム貯留状況などが複雑に絡むため、時空間的な降雨状況や降雨量への影響要因を理解することが今後の洪水リスクを見通す上で重要。
  • 2025年3月時点でラニーニャ現象が発生しているとみられるが、2026年半ば過ぎからエルニーニョ傾向に移行していくと予測されており、2026年後半から2027年にかけてタイにおける気象リスクトレンドは大雨・洪水から少雨・渇水傾向に向かう可能性がある。

2025年の降雨状況

2025年の月別・年間合計およびエリア別の降雨量を図表1に示す。2025の年降雨量はタイ気象局(Thai Meteorological Department:以下TMDと省略)の国内全観測点の平均値で1,816mm、1991-2020年の30年間平均値(平年値)と比較して+12%となり、年間降雨量が大変多い年となった。地域別では、北部が平年比+22%、北東部で+10%、バンコク含む中央部で+9%、東部で+6%、南東部で+12%、南西部で+9%となり、タイの各地において総じて平年値を大きく超える降雨量となったことが分かる。

図表1:2025年の月別・年間合計およびエリア別の降雨量(TMD公表データ1)を基に当社にて作成)

月別でみると、雨季(5月下旬~10月末)のうち6月以降の期間は全体としては平年値に近い雨量となった。一方で、雨季開始前の2月、4月、雨季開始直後の5月、および雨季終了後の11月に全国平均で平年値を50%以上超過する異常な雨量が観測された。特に11月は全国平均で+129%の異常な雨量となっており、同月にはタイ南部ハートヤイ市街地などで顕著な豪雨による洪水が発生した。この時期の主要ダム貯留量の満水状態近くまでの増加や雨量状況(雨季終了後の異常な雨の多さ)も相まって、一時的に更なる洪水リスクへの社会的な危機感が強まったが、タイ南部以外では顕著な洪水被害はその後発生しなかった。

 2025年のタイ全土の年降雨量が大きくなった要因は、ラニーニャ現象の傾向を示す太平洋海面水温の変動(本稿の後半参照)、7月から12月にかけての例年以上の数の台風・熱帯低気圧がインドシナ半島に上陸したこと、および季節風(モンスーン)の変動など、大きな規模の気象現象が複合的に影響したものとみられている。

 なお、図表1の降雨量は、TMDがタイにおける気象情報の地域区分別(図表2)で全観測点の月間降雨量の平均値を算出し(各エリア上段)、その数値の平年差を平年値からの増減比(下段)として表示しているものである。それぞれの地域区分は広いため、TMDがタイ国内の2025年の年間累積降雨量を地図上にマッピングしたデータ(図表3)も見てみると、特にタイ北部、北東部のラオス側北端部、バンコク周辺~タイ東部(ラヨーン方面)、およびタイ南部の西側(プーケット方面)および東側(マレーシア方面)などで平年値を大きく超過する累計降雨量となっている。平年値以下の累積降雨量となった地域は中部、北東部、南部の一部と限られている。

Rainfall Thailand

2.2011年以降の年降雨量と2025年降雨量の比較

直近のTMDの統計で使用されている1991-2020年の平年値をベースに、大洪水のあった2011年以降の各年の全国平均の年間降雨量を比較する(図表4)。2011年以降の15年間で、平年値(1,623mm/年)を上回ったのが10回、下回ったのが5回となっており、2025年は直近15年間で上から4番目に降雨量が多い年であることが分かる。

Rainfall compare to average
図表4:2011-2025年の年降雨量の平年値(1991-2020年)との差異 (TMD公表データを基に当社にて作成)

つまり、2020年までの30年間の平年値に対しての年間降雨量は直近15年間では比較的多くなっているといえる。また、近年は年間降雨量の平年差が波のように変化しており、雨の多い年と少ない年がそれぞれ5年前後程度の周期で繰り返されている。今後もタイにおいて極端に降雨量が多い年(=洪水リスク)、少ない年(=渇水リスク)が繰り返し発生していく可能性は十分に高いと考えられ、洪水、渇水の両方のリスクに定期的に直面し得ることが示唆される。タイの降雨量は地球規模の海面水温分布(エルニーニョ/ラニーニャ現象など)や季節風の状況、台風(熱帯低気圧)の接近状況に大きく影響を受けるとみられており、タイ国内ならず広域での気象現象の状況も踏まえてタイの洪水・渇水リスクと向き合っていく必要がある。

3.2025年のチャオプラヤ川水系のダム貯留量状況

タイ北部からバンコク方面に南北に連なるチャオプラヤ川水系の上流には巨大な貯留量を誇るダムとして、北部エリアにプミポン、シリキット、クウェーノイの3つのダムが、中部にはパーサックダムが立地している。これら主要4大ダムの貯留量の状況は下流の河川水位・流量に強く影響するため、チャオプラヤ流域の洪水リスクを考える上で重要なファクターである。

 2025年の主要4大ダム合計貯留量の時系列データを2011、2023、2024年と比較したのが図表5である。2025年のダム貯留量は、1月から5月中旬頃の雨量が少ない時期に渇水傾向にあった2023年と似た推移でを辿っていたものの、雨季開始後の5月下旬以降には大洪水が発生した2011年に似た上昇カーブで推移したことがグラフから読み取れる。

Big 4 Thailand Dam storage capacity
図表5:2023-2025年、および2011年の主要4大ダムの合計貯留量の時系列データ3)

図表6は、11月24日時点(2025年の貯留量最大となった日ベース)での主要4大ダムの貯留量を2011年以降の年別で比較したものである。2025年のピーク時の貯留量は、2011年以降の15年間で2011年に次いで2番目、ほぼ2011年と同様の貯留量の大きさ(ほぼ満水状態)であったことが分かる。

 このダム貯留量の値は概ね、ダム上流域にもたらされる雨量と、河川下流側への放流量コントロールによって増減する。そのため、降雨量の多い年は前倒しのダム放水による雨季終盤の大洪水回避が、降雨量の少ない年は雨量状況を見極めながらのダム放流制限(貯留継続)がそれぞれ求められ、洪水・渇水防止のためにはタイ政府・ダム管理者による計画的かつ状況判断を踏まえた適切な放流・貯留コントロールが重要である。図表5において、8月頃に2011年とほぼ同じ貯留量の貯留量に一度達したが2011年の貯留量カーブをその後超過しなかったこと、そして2011年よりも1か月程度遅れた11月過ぎに2011年と同様のほぼ満水状態の貯留量に達したことも踏まえると、2025年は2011年大洪水の経験・教訓を活かしてタイ政府が適切な放流量コントロールに尽力したことが窺える。また、図表1に示すように、2025年は雨季終盤の10月の降雨量が各地で概ね平年以下であったことも幸いし、毎年のように浸水するアユタヤ近郊やチャオプラヤ中流の低地エリア以外では大きな洪水被害は発生しなかった。

Thailand 4 dams storage capacity
図表6:2011-2025年の主要4大ダムの11月24日時点の合計貯留量比較3)

4.エルニーニョ/ラニーニャの傾向から読む2026年の見通し

 エルニーニョ(El Nino)/ラニーニャ(La Nina)は、太平洋赤道域の中部および東部における海面水温が平年より高くなる/低くなる状態が数か月~1年程度継続する現象であり、タイや日本を含め世界中の異常な天候の要因となり得ると考えられている。タイなど東南アジアにおいては、エルニーニョの発生期間は高温と少雨による乾燥状態となる傾向にあり、ラニーニャ現象の期間は低温と降雨量の増加が発生する傾向にあると言われている。

 

 図表7は、アメリカ海洋大気庁(NOAA)が公表しているエルニーニョ/ラニーニャの発現指標となるRONI(Relative Oceanic Nino Index/相対海洋ニーニョ指数)の2000年以降の推移状況のグラフである。RONIは太平洋の特定地区における海面水温の平年からの偏差を示しており、この指数が0.5以上となる期間が継続するとエルニーニョ、-0.5以下となる期間が継続するとラニーニャの発生を意味する。エルニーニョでもラニーニャでもない状態は中立状態(Neutral)と呼ばれる。このカーブと前述の図表4(年別のタイの降雨量比較)を比較すると、時期や変動幅に多少のずれはあるものの、傾向としては負の相関関係にあり、ラニーニャの年は降雨量が多く、エルニーニョの年は降雨量が少ない傾向にある。直近では、2023年後半から2024年中頃まではエルニーニョ、その後2025年末にかけてRONIが低下し、直近の約1年半は殆どラニーニャが発現していたとみられる。前述に示したとおり2025年のタイ全土の年降雨量は平年を超過する観測結果となっていることから、このラニーニャ傾向のデータは、2025年タイが多雨となったことと因果関係があると整理できる可能性が高い。

RONI Index Fluctuations
図表7:2000年以降のRONI指数の変動状況5)

最後に、今年のタイの降雨量を占う年初時点の参考データとして図表8を紹介する。これは2026年1月から9月にかけてのエルニーニョ/ラニーニャの発現確率をNOAAが予測・公表しているものであり、TMDのウェブサイト4)もこの指標を紹介しており、TMDによる気象予測の一つの参考情報となっている。2026年3月の時点でラニーニャが発生している確率は30%程度となっているがその後徐々に低下し、年末にかけてエルニーニョの発現確率が80%超まで増加していく予測となっている。

 

 日本の気象庁ウェブサイトで公表されているエルニーニョ監視速報(2026年3月10日更新)7)においても、「今後、春の間にエルニーニョ現象が発生する可能性と平常の状態が続く可能性が同程度(50%)となり、夏には平常の状態が続く可能性もある(40%)が、エルニーニョ現象が発生する可能性の方がより高くなる(60%)。」との見通しが示されており、NOAAと近い予測が示されている。仮にこのNOAAや気象庁の予測が的中する場合、タイの2026年雨季はエルニーニョ傾向または中立状態となるため、タイ全土ベースでは2025年よりも総降雨量自体は減少することが予見される。また、過去の傾向を踏まえると、2026年の年末から2027年にかけては少雨傾向に転じる可能性も考えられる。ただし、総降雨量が減少して2011年のような大洪水の発生可能性が低減しても、雨季の序盤(5-6月)や終盤(9-10月)には短期的な集中豪雨による内水氾濫や鉄砲水・土石流などによる洪水災害は例年発生しやすく、油断は禁物である。

Monthly probability of El Nino La Nina
図表8:2026年1月から2026年9月にかけての月別のエルニーニョ/ラニーニャの発生確率 (2026 年3月10日最終更新)6)

エルニーニョ/ラニーニャはタイの気候に影響をあたえる1つのファクターに過ぎず、NOAAの予測データが長期的な確率情報であることには注意が必要だが、ぜひ定期的に最新情報を参照されたい。このような長期予測データや、前述で触れたようなエリア別・時期別の実際の雨量状況、ダム貯留量状況、およびTMDが雨季の開始時期前後(5月頃)に公表する雨季の雨量見通し・3か月予報などの予測情報も随時確認いただくことで、タイにおける洪水発生リスクを予見する参考情報になると考えられ、2026年雨季の洪水対策の一助となれば幸いである。

参照:

1) タイ気象局(Thai Meteorological Department)降雨量各公開データ

http://climate.tmd.go.th/gge/

https://www.tmd.go.th/climate/summarymonthly

2) タイ気象局(Thai Meteorological Department)累積降雨量(日次更新)

http://www.arcims.tmd.go.th/dailydata/yearRain.php

3) タイ国立水文情報データセンター(National Hydroinformatics Data Center)ダム貯留量データ

https://www.thaiwater.net/

4) タイ気象局(Thai Meteorological Department)The El Nino-La Nina phenomena

https://www.tmd.go.th/climate/El-Nino-La-Nina

5)   アメリカ海洋大気庁(NOAA) Climate.gov

https://www.cpc.ncep.noaa.gov/data/indices/oni.ascii.txt

6)  アメリカ海洋大気庁(NOAA) Climate Prediction Center

https://www.cpc.ncep.noaa.gov/products/analysis_monitoring/lanina/enso_evolution-status-fcsts-web.pdf

7)  日本 気象庁(JMA)エルニーニョ監視速報

https://www.data.jma.go.jp/cpd/elnino/

 

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